ストレスが、子供の視力に影響を及ぼすことがあります。
学校の視力検査で視力低下を指摘され、病院の検査で器質的な問題が見られないときに、「心因性視力障害」と診断されることがあります。
たとえば視力検査で極端に視力が悪いのに、つまずくことなく全く正常に歩ける場合は、心因性視力障害が疑われます。
心因性視力障害は「眼心身症(目の心身症)」とも呼ばれます。年齢的には8~12歳前後に多く、また女子の発症数が男子の3~4倍程度とぐっと多いのが特徴的です。
「ものを見る」というのは、目の網膜が水晶体(レンズ)で屈折した光によって刺激され、これが視神経を通って脳に伝わることです。
視力に支障が出るときは、このプロセスのどこかに障害が起きているわけですが、「心因性視力障害」はこのいちばん最後の、「脳で刺激を受け取る段階」に関わるものです。
網膜や視神経に機能的な問題が無いにもかかわらず、また眼鏡などで矯正を試みているにもかかわらず、視力が出ないのが症状です。
心因性視力障害では、子供が視力低下以外にも視覚障害・視野異常・色覚異常、さらには聴力の障害すら訴えることがあります。
これらの症状は何らかの「ストレス」によって引き起こされる「心の悩み」なのですが、ストレスの原因は様々なことから、その特定による治療はなかなか難しいのが現状です。
スマホやタブレットのSNSを通して、家族や友だちと休みなく瞬間的にコミュニケーションが行える便利な環境がある反面、現代の子供たちが受けるストレスも、ひと昔前と比較にならないほどに多様化しています。
代表的な心の悩みとしては、家庭内における両親の不仲や親とのコミュニケーション不足・兄弟に対する嫉妬、学校においては友人とのトラブル・先生との人間関係などが考えられます。
学校や塾などで試験が近づいた際、プレッシャーで黒板や答案の字が読みにくくなることもあります。
ストレス以外にも、たとえば好きな先生や友人がメガネをかけている場合などに、「メガネへのあこがれ」が要因になっているケースもあります。
さらには子供本人が見えるのに「見えない」と嘘をつく、いわゆる「詐病」のケースも考えられます。
本人が意識的に嘘をついているか否かが、「詐病」と「心因性視力障害」との違いになります。子供が親の関心を引くために、見えないふりをしているケースもあります。
詐病では子供本人が「見えない」と主張しているために、眼科医が正しく診断をつけることが難しくなります。
眼科では眼球や網膜・視神経の機能検査を行って問題が無いことを確かめ、同時に生活環境を問診して、ストレスの所在を明らかにしていきます。
目の器質的に問題がないことが判明したならば、心のストレスを軽くする(取り除く)ことを目指した治療が行われます。ストレスの状況に応じて、さらに心療内科の診察を受けることもあります。
点眼薬(通常の目薬)を使うことによって、本人に「治療をして回復している」と思わせる暗示効果(いわゆる「プラセボ」)を狙うこともあります。
また前述の「メガネへのあこがれ」がある場合は、度のないメガネをかけさせることで本人のストレスが軽減し、症状が改善することもあります。